「、1度城下に降りてみないか?」
「え?」
葵花に言いつけられた時間ちゃんと大人しくしていたは、すっかり熱も下がり、もう訓練場に居た。
訓練用の槍を手に、兵と稽古をつけている。
当然その兵がに敵うはずがなく、軽くあしらわれ、次々と指南を受けていた。
ちょうどキリの良いところで、馬超が話しかけた。
「え、視察?買い物?・・・なんにしろ行く!!」
「よし、なら昼食の前までには準備していろ。迎えに行く」
まったく角の取れてしまった馬超を、姜維は呆然と見つめていた。
いや、角が取れたというより、を仲間として認めたといったほうが良いのか・・・。
しかしそれにしては、様子が違う。
「・・・若のように意地を張った人間が開き直ると、怖いですよねぇ」
「何が言いたいんです、馬岱殿」
「さぁ、なんでしょうか?」
訓練場を去る馬超を訝しげに見送る姜維の隣に、馬岱がするりと入ってきた。
いつものように物腰柔らかな口調の馬岱を、姜維はチラと見やった。
馬岱はそこで、優しげだが何か含みのある笑みを湛えていた。
「ま、伯約殿も若に負けないように頑張ってください」
ふふ、と控えめに笑うと、馬岱は稽古に戻った。
「もうっ、どうしてこのわたくしがわざわざ偵察になんて!!」
「・・・甄姫殿、我慢めされよ。そう大声で騒いでは、支障が出ますぞ」
地味なマントに身を包んだ男女が、ある小道を歩いていた。
ポツポツと配置された石畳が、女の苛立ちを忠実に再現する。
「どうしてこの僕が・・・この才知溢れる僕がですよ!?
一体全体何がどう転べば偵察役なんかに任命されるんでしょうね!?まったくもって理解できませんよッッ!!」
「落ち着け陸遜、胃がキリキリする・・・」
男女の反対側から、こちらは男が2人、これまたマントを着けて歩いてきた。
「「「「・・・あ。」」」」
太陽が真上になるころ、蜀のメインストリートで、その2組はかち合った。
周りが元気に動き回るなか、4人だけが完全に静止していた。
しかし、すぐにお互いの目的を悟った両者は、手を前へ差し出した。
「・・・共に聞き込みをして城に覗きに行った方が、効率的でしょうな。私は張文遠。よろしく頼む」
「そりゃあいい、俺もそれを提案しようと思ってたところでね。私は呉の呂子明だ」
「ま、僕らだけでやってもいいんですが、邪魔されても困りますしね。陸伯言です、どうぞお見知りおきを」
「あぁ〜ら、それはこっちの台詞ですわ、のぼせた天狗軍師さん?この甄姫、そうなれば許しませんことよv」
とりあえず一時休戦、暗黙の了解で協定を結ぶ自分たちを差し置いて、
一触即発、やる気満々漲る陸遜と甄姫に、呂蒙と張遼は深く溜息をついた。
そして胃をグッと押さえると、"お互い苦労致しますなぁ"と、肩を叩き合った。
「ねぇ孟起、漢升さま、これすごく美味しい!!」
小さな屋台の前で、幸せそうな歓声が上がった。
その声の主・は、蒸しあがった菓子を頬張って、馬超と黄忠を手招いた。
それを見た屋台の老翁は、嬉しそうに笑う。
「戦女神さまにそう言って頂けるとは、光栄の至り!これで商売繁盛は確実ですのう!!
さぁ、おひとつお持ちくださりませ」
「え、良いんですか!?うわぁっ、ありがとうございます!!」
老翁は深く皺のある顔をくしゃくしゃにして、ニコニコしながら、に菓子を差し出した。
「良かったのう。店主も、すまんな、ありがたい」
「いいえ、我々がここで無事に商売を再開できましたのも、戦女神さまのおかげにござりますゆえ」
黄忠はの頭を撫でると、店主である老翁に礼を言った。
しかし逆に店主が恭しく礼をしたので、は照れたようにぺこりと腰を折り曲げた。
まるでおじいちゃんとお使いに来た孫娘。
何故か蚊帳の外に置かれてしまった馬超は、頭をかいて、2人を促す。
「、黄忠殿、そろそろ鍛冶屋へ行かねば」
「ちょっと待って、あそこ、何か騒いでる・・・」
は素早く店主に礼をすると、貰った菓子を黄忠に預けて、走り出した。
野次馬根性丸出しかと思えば、どうもそうではないらしかった。
が向かう場所では、数人の男の声と、娘が何か抗議している。
聞こえる台詞から判断すると、連れ去ろうとしている・・・のか。
それに気付いたは人ごみを掻き分け、そこへ乱入した。
「ちょっとあんたら何やってんのよ!!こんなこと、劉備様がお許しになるとでも?!」
そこには5人の賊風の男と、それに腕を取られた女が1人。
綺麗な顔立ちをしたその女は、半分涙目でを見た。
「あぁ?こんなチンケな国の国主サマなんざ、俺たち魏の山賊が怖がるわけねぇな!!」
「ちげぇねぇ!!それよりアンタ、キレーな顔してんじゃねーの・・・」
下卑た笑いで手を伸ばしてきた男の顔を、は思いっきり張り倒した。
追いついてきた馬超と黄忠が止めるのも完全無視。
"いい、私がやってやる"と呟くと、男たちを睨んだ。
突然異世界に飛ばされたうっぷん晴らしも含まれているのだろう、目は据わっていた。
きっともう止められないと、2人は諦めたように後ろへ下がった。
「・・・この蜀がチンケですって?劉備様が怖くないですって?
たかが魏の山賊ふぜいが、何調子に乗り腐って、ただの下衆じゃないのよ!!舐めんのもイイカゲンにして。
私、アンタらみたいな女を馬鹿にしてるような馬鹿、大ッッッッ嫌いなの。
折角お菓子もオマケして貰っていい気分だったのに、もうアンタらのせいで最悪!!
死ぬより後悔させて、もう2度とこの国でフザけた事できないようにしてやるわ、このカス!!!!」
人が変わったようにまくし立てるに唖然として、そして山賊はに襲い掛かった。
うぁあ、やっとまともに呉も出てきましたー。
とりあえずリョモたんと山田たそははずせないのです。
陸遜に胃がキリキリなリョモたんが大好きなのです。
意外に苦労性の山田たそもほんと大好きなのです。