蜀の都のはずれ、ある川辺。
そこらに散在する木材と、石。
たくさんの男や女が、忙しく動き回っていた。
その中にはちらほらと、少し上等な服を身につけた者も居た。

「姜将軍、そっち持ってくだせぇ」
「あ、はい!!」

壮年の男に呼ばれて、姜維が走り寄る。
高めに結った髪が揺れて、何かの尻尾に見えた。
想像するとどうも可笑しくて、は声を殺して笑った。
の隣で砂を運んでいた男が、それに気付く。
何かあったのかと尋ねると、男は砂の入った袋を下ろした。
重い音がした。
「いやあのね、伯約の髪、尻尾に見えちゃって・・・」
「姜将軍の・・・?あぁ、あれですか!!」
男は姜維の方を見ると、ふき出した。
その笑いはすぐ回りに伝わり、もこらえるのをやめた。
川辺は笑いで満ちる。
姜維が不思議そうに振り向くと、それは更に激化した。


たちは今、諸葛亮の命令で、都の外れにある堤防の補修工事に駆り出されていた。
本当は今日、趙雲と遠駆けに行く予定だったのを、返上してのことだった。
川辺では、若い衆が総出で工事の手伝いに当たっている。
民と、趙雲、馬超、馬岱、関平、姜維、星彩。
ギャーギャー騒ぎながらだったが、なんとか工事は進んでいた。
未だ収まらない笑いの理由に気付いた姜維は、情報の発信源・を見た。
そして周りに、仕事を続けるよう促すが、それも逆効果。
姜維の髪はさらに揺れ、促進されるのは、おのおのの横隔膜の振動だけ。

「あぁもうっ、分かりましたよ、結い直せばいいんでしょう!?まったく・・・」

髪紐を解くと、姜維はバサバサと適当に整えると、下の方で一つに纏める格好になった。
そうすると、ちょうど無双3のモデルだ。
しかし姜維はそこで止まった。
そのままのポーズで、何か考え込んでいる。
の頭には、小さい頃テレビで見た●休さんが浮かぶ。

ぽく、ぽく、ぽく、ぽく、ちーん・・・とんちんかんちん一●さんっ♪

が頭の中で歌い終わると同時に、姜維が動く。
「・・・さぁ、これでもう揺れませんよ。ほら、仕事仕事!!」
そう言って手をバタバタしながら人を工事に戻そうとする姜維の髪は、横で軽く編まれていた。
確かにゆったりと編んでしまえば揺れはしないが、得意げな姜維が妙に笑える。
姜維の苦労虚しく、笑いはしばらく止まらなかった。


「なんだかとても賑やかですね・・・そろそろお昼にいたしましょう」
工事が再開されてしばらくすると、月英が川辺にやってきた。
女官や小さな女の子を連れてきた彼女は、白煙に包まれての登場。

何だ、一体何の演出だ?
まさかイリュージョン?
プリンセス天●か?
え・・・もしかして消される??

"煙=2代目引田●功=消される"のイメージは、幼い頃からの記憶にシッカリ刻み込まれていた。
しかし月英がそんなパフォーマンスを披露してくれるはずも無い。
白煙の元は、たっぷり用意された点心だった。
気付けば、もう太陽は、すでに真上を通り過ぎている。
どうりで腹も悲鳴を上げていた。
「さぁ、召し上がってください。娘さんたちも手伝ってくれましたから、きっと格別ですよ」
月英がニコリと笑って、周りに居る女の子達と目を合わせた。
それが合図だったように、子供達はわれ先に、自分の親に走り寄って抱きつくと、遠足気分の昼食が始まった。


積んである木材に腰掛けて焼売をパクついていると、の周りに、自然と人が集まった。
「そういえば、市場で山賊を追っ払ったらしいじゃねぇですか!」
「俺も聞きましたぜ!!なんでも本当に人間が吹っ飛んだとか・・・」
「そうだ、俺も聞こうと思っていた。あれ、一体どうやったんだ?」
近くに座った男が言い出すと、それを後押しするように馬超が聞いた。
どのようにやったのか、どんな風に人が飛んだのか。
見たい見たいと騒ぐ民に、は困った顔で考え込んだ。

があの時用いたのは、流体術参の式、"氣"を利用した技だ。
これを修得してやっと、流で一人前と認められる。
跡取りがであるのに不満を覚えて本家道場に乗り込んできた者達にも、そういえばまったく修行不足なならず者が居た。
そのときは流石に腹が立って、容赦なく吹っ飛ばしたものだ。
・・・しかし力というのは見せびらかす物ではない。
ひたすら隠し、忍び、いざというときだけ発揮するのだ。
だがどうも、このまま民や将を収められそうにない。
感情を滅多に出さない星彩でさえ、なんだかわくわくした瞳でを見ている。
はちょっと溜息をついて、"よくやったじゃないか、これは演舞だ"と立ち上がった。
わっと歓声が上がる。
はいかにも頑丈そうな関平の手をとった。

「万物には必ず"氣"というものが漲っています。
そこから攻撃などによって流れ込んできた相手の"氣"を受け流し、自分のそれを混ぜ合わせ、思いっきり逆流させる!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

・・・さようなら関平。
遠ざかる軍神の子の、情けない叫び声。
それに続く水音、水柱。
関平の身体は堤防を飛び越え、川に吸い込まれていった。
「一朝一夕で出来ることではないし、ヘタに真似すると大怪我するから、やっちゃ駄目ですよ?」
がそう言うと、今までポカンとしていた人々が騒ぎ出す。
"なんだか難しくてよく分からないが、とにかくすげぇ、女神さますげぇ"と興奮する民を横に、将軍達は未だ呆けていた。
はニッコリ笑うと、堤防に飛び乗った。
「かんぺぇ〜い、大丈夫ぅ?ほら、手ぇ、つかまって」
必死でザバザバ泳いでくる関平を覗き込んで、は手を差し出した。
やっと岸までたどり着くと、関平は荒い息での手を掴んだ。

「け、軽装で良かっあぁあぁぁぁぁぁぁぁ」
「再見、関平!笑いの為に飛ばされてv」

関西生まれでもないのに笑いを追及するのおかげで、あぁ、何処へ旅立つのか関平。
切なくも、再び遠く、小さくなってゆく声。
早く帰ってきてね、待ってるわ・・・な雰囲気ではない。
また大きな水柱が立つと、川辺は笑いに包まれた。







・・・内容が薄い!!!(ドーン!!)
今まで雰囲気重かった反動です。信じて。
あと、私関平だいすきですよ(にっこり)